「京都市世界遺産保護条例」案に賛成討論,やまね智史議員(伏見区)
2025.12.11
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日本共産党京都市会議員団は「市会議第27号・京都市世界遺産保護条例の制定」を提案し、賛成の態度を表明していますので、以下、その理由を述べます。
今回、各会派・同僚議員のみなさんには、私どもの提案を真摯に受け止めていただき、12月3日、文教はぐくみ委員会での審査におきましても、様々な角度から熱心なご質問をいただきましたことについて、まず感謝を申し上げます。その上で条例案に賛成する理由について、四つの角度から申し述べます。
第一は、全会一致で先ほど可決されました「京都基本構想」を具体化する上で、重要な柱となっていくと考えるからです。「京都基本構想」では、その冒頭に「京都市が、わたしたちと世界中のあらゆる人々にとって、歴史と文化を介して人間性を恢復(かいふく)できるまち、自然への畏敬(いけい)と感謝の念を抱けるまち、そして、自他の生をともに肯定し尊重し合えるまちであり続けるために、不断の努力を重ねていく」と、述べています。また、第二章「京都のかたち 第四節・世界有数の学藝の府」では、15箇所の寺社城がユネスコ世界文化遺産に登録されていることへの言及があり、まさに、世界遺産保護条例と共鳴し合う内容と考えるものです。
第二は、世界遺産保護における「コミュニティ参画の重要性」についてです。この点に関わって条例案第16条で「市民等」による申し立てができることに関し、複数の会派・議員から「もっと対象をしぼってはどうか」というご意見をいただきました。私どもも深く検討した部分です。
京都のまちは、応仁の乱の荒廃の中から祇園祭を復活させたような、正に町衆と呼ばれる人々、民衆の自治によって支えられてきました。また、五山の送り火は世界遺産にはなっていませんが、緩衝地帯あるいは歴史的環境調整区域にあって京都市内15箇所に点在する世界遺産を包み込むように存在し、その眺望を守りたいという強い思いは、眺望景観創生条例をはじめとした新景観政策に深く刻まれています。そうした構成資産と不可分の関係にある守るべき地域の景観を一番知っているのは、その地域の住民の皆さんであり、歴史的景観に対する尊敬の念は、その土地で長い時間を掛けて培われてきたものであると考えます。
2012年、世界遺産条約40周年記念会合において採択された提言「京都ビジョン」では、世界遺産保護における「コミュニティの役割の重要性」が強調されました。「世界遺産と地域社会との関係は、条約の中心的位置を占める」「世界遺産条約の履行において地域社会と先住民を含むコミュニティが重要な役割を果たしていることを何度でも強調する」「コミュニティの関心と要望は、遺産の保存と管理に向けた努力の中心に据えられなくてはならない」などなどです。
条例案では、そうした市民等が、世界遺産やその所在地等の保存・管理等の状況に関し、市長に対し意見の申し立てができることや、世界遺産保護審議会での検証や公聴会の開催を位置付け、市民等の意見表明の機会を制度的に保障しております。このことは、京都ビジョンで示された方向に沿うものと考えます。同時に、世界の宝である古都京都の文化財を守るため、世界遺産所有者、市民、来訪者、事業者など、京都に関わるあらゆる人々に広く門戸を開く必要があると考え、「市民等」という表現にさせていただきました。
第三は、世界遺産保護における「周辺環境の保全の重要性」です。この点について、緩衝地帯や歴史的環境調整区域に関して、「現状の規制を超える規制を課すものなのか」、あるいは、「財産権への侵害ではないか」というご意見をいただきました。この点も慎重に検討した部分です。
今回の条例制定は、直接的に何らかの新たな規制を定めるものではありません。世界遺産の顕著な普遍的価値(OUV)が毀損されないかどうかを、市民・専門家が参加した形で検証する仕組みをつくるものです。この点では、2021年に国の文化審議会が取りまとめた「我が国における世界文化遺産の今後の在り方(第一次答申)」で指摘されている内容が重要と考えます。
そこでは、「近年の世界遺産委員会においては、世界文化遺産の緩衝地帯を適切に設定し、その外部も含めた周囲の環境を厳格に管理していくことが求められている。そのため、大規模な事業が計画された際などには、文化遺産への影響を適切に評価する必要性が高まっている」こと、また、「我が国では、都市計画法・農地法・景観法など既存の法体系により緩衝地帯の開発を複層的にコントロールしている」ものの、「それぞれの法体系は世界文化遺産を保護するために設けられたものではなく」「適切な制限や開発調整の手続きとして用いることで、緩衝地帯の保護措置としている実態にある」こと、「緩衝地帯の外部については、どこまでをコントロールの対象とすべきか明確化されていないことが多いうえに、法制度の裏付けが構成資産や緩衝地帯に比して十分でない場合も見られ、その管理に困難が生じている」こと、しかしながら「緩衝地帯を含む世界文化遺産の周辺の環境は、遺産が顕著な普遍的価値(OUV)を形成するに至った文化的背景を物語るものであり、遺産と連続する文化的なつながりを有する場所であることが多く、その保全の方策は今後の課題」とされています。
以上のことから、条例案第2条において、条例の対象地域を、古都京都の文化財の構成資産、その緩衝地帯にとどまらず、国がユネスコに提出した推薦書における「歴史的環境調整区域」も含めていることは、国の文化審議会答申の具体化ともいえるものと考えます。
第四は、「自治体の体制整備や財政措置の重要性」についてです。国の文化審議会答申では、「世界遺産を周辺の環境及び地域社会とともに保護していくには、遺産を総合的に管理するサイトマネージャーの存在が重要である。我が国では多くの場合、地方自治体の担当者がこれにあたるが、その育成・配置の実情は資産によって異なり、必ずしも十分ではない」「毎年のモニタリング、文化庁による定期的な保全状況の確認、6年サイクルで世界遺産委員会への定期報告といった機会があることに鑑みれば、世界文化遺産を持続可能なかたちで永続的に保存・活用するためには、継続的に予算・体制を整える必要があり、改善が求められる」とされています。
また、世界遺産所有法人の皆さんからは「文化財指定を受けていない建物や庭園、森林の管理・保全の経済的負担が大きい」との声をお聞きしてきました。京都市の所有する二条城においても、その運営・修理・整備に昨年度だけでも約9億6000万円を費やしており、そのうち国の負担は6350万円にとどまっています。このことは、本市独自の財政措置とともに国の財政支援が不可欠であること、世界遺産の保全が文化財保護法の範囲だけでは限界があることを示しています。
以上の点から、条例案で「本市の体制整備」「必要な財政措置」「専門職員の育成」などを規定していることは、国の文化審議会答申の提起に応えるとともに、世界遺産所有法人の皆さんも後押しするものになると考えます。
最後に、2004年の景観法制定時、衆議院での法案成立時の付帯決議には、次のように記載されています。「我が国の都市を美しさと風格を備えた世界に誇れる都市へと再生させるため、都市再生に係る諸制度の運用に当たっては、良好な景観の形成、緑地の保全及び緑化の推進に関し適切に対応すること。特に、京都などの世界に誇る歴史的な価値を有した美しい都市の景観の回復・保全を図るため特段の配慮を行うこと」。このように京都の景観問題は、京都市のみならず、我が国全体にとっても重要な位置付けを持つものであります。
世界遺産保護条例の制定によって、これからも世界遺産保護、景観や住環境の保全へ、広範な市民のみなさん、事業者のみなさん、世界遺産所有法人のみなさんと力を合わせることを呼びかけ、賛成討論と致します。
