日本共産党京都市会議員団 団長 井坂博文
市長が「行財政改革計画(案)」(以下「計画(案)」)を発表し、パブリックコメント(6月12日~7月11日)が始まっています。京都市基本計画(京プラン2025)の実施計画に代わる計画とされているもので、計画期間は2021~2025年で(その内2023年までの3年間は「集中改革期間」)、市民負担増と市民ための施策の切り捨てを行うことを宣言しています。
第1の問題点は、「コロナ禍」という状況で行政が最優先するべきことは、市民のくらしと生業の支援、コロナの封じ込め対策であるにもかかわらず、それと全く逆行する提案を行っていることです。
党市議団が今年2月に行った市民アンケートの返信2,400通の中にも、コロナ禍でくらしや生業がますます厳しくなっている実態が切々とつづられていました。「計画(案)」は、こうした市民の切実な声に背を向け、敬老乗車証の改悪(対象年齢の75歳への引き上げ・所得制限を新設・負担金の値上げ)、保育料や学童利用料の値上げ、国民健康保険料の値上げにつながる操出金のカット、保育士の給料引き下げにつながる補助金削減など、市民への負担を押し付ける項目ばかりが並べられています。また、中小業者支援の具体策はなく、職員削減で、公衆衛生や災害対策などの体制のぜい弱さに拍車をかける提案まで行っています。
市長は、今の財政状況のままでは、10年以内に「財政再生団体」となり「急激かつ大幅な市民サービスの低下が避けられない」などと言いますが、今回の提案こそが、コロナ禍で苦しんでいる市民に対して「急激かつ大幅な市民サービスの低下」を押し付けるものです。「計画(案)」は、住民福祉の向上という自治体本来の役割を投げ捨てるものであり、断じて許せるものではありません。
第2の問題点は、収入の過少見積もりと支出の過大見積もりで、財源不足を必要以上に強調し、市民を脅していることです。
京都市は昨年11月時点で、2033年(R15)までの財政収支試算を示し、このままでは財政が破たんしかねないとしていました。しかし、財政の担当部局ですら、収支を「精緻に見込むことは困難」と答弁するなど、大まかな試算であることを認めています。実際、今年度の予算にしても、昨年11月時点の試算と、3か月後の今年2月に実際に予算編成をした時点での収支を比較すると、収入は増え、支出は減っているため、財源不足額は500億円から236億円へと減っています。3か月の間に収支の見込みが大きく変わっており、11月の試算は恣意的だったとさえ言わざるを得ないものです。
ところが、今回提案されている「計画(案)」は、昨年11月時点での財政収支試算を前提としており、その試算を根拠に財政が破たんするかのように市民に説明することは、行政としてあまりにも不誠実と言わざるを得ません。
第3の問題点は、財政が厳しくなった理由は、平成初期の大型事業と地下鉄東西線建設による借金のため、と京都市自身が説明しているにもかかわらず、「計画(案)」ではそのことにほとんど触れられないまま、あたかも、敬老乗車証や保育や国民健康保険の充実のための支出などが財政悪化の一番の原因かのように書かれていることです。
地下鉄東西線はゼネコン言いなりに契約変更を143回も繰り返したために、当初の建設費2,450億円が倍にも膨れ上がったという本市の失政によるものです。その後も、京都高速道路建設というムダな大型事業に665億円もつぎ込むなど、失政の反省を何らしないまま、財政悪化は福祉施策を充実させたためだと言うのは、全くの間違いです。
第4の問題点は、上記に記載した問題点と深くかかわっているもので、財政が厳しいと言いながら、まず削らなければならない不要不急の大型事業を、今後も聖域扱いで推進する、としていることです。
2つの小中一貫校整備に150億円、3施設(地域リハビリテーション推進センター・こころの健康増進センター・児童福祉センター)を一つの建物にまとめる合築に70億円かける事業は中止するべきです。市立芸術大学移転整備で305億円かける事業は少なくともこの時期には行わずに延期するなど、不要不急の大型事業を削るべきです。また、北陸新幹線延伸事業(総事業費2.1兆円)や堀川地下バイパス事業(高速道路で計画時は総事業費1,200億円)に着手すれば、それこそ京都市の財政が破たんに追い込まれかねません。
第5の問題点は、三位一体改革以降、地方への財政支出を減らしている国の方針を、市長が「正しい」と肯定していることです。国からの財源を確保しようとせず、市民に負担を押し付けることを前提に考える市長の政治姿勢は、自助・共助を押し付ける国の新自由主義の路線をそのまま京都市に持ち込むものと言えます。
第6の問題点は、敬老乗車証の改悪・保育料値上げ・学童利用料値上げなどの理由に「受益者負担の適正化を図るため」との説明がされていることです。これは、社会保障の分野に、「受益」が多ければ「負担」は重くなるのが当然という考え方を持ち込むものであり、社会保障が権利であることを否定するとともに、市民間や世代間に分断を持ち込もうという意図を持ったものです。
自治体本来の役割を発揮する京都市へ
コロナ禍が長引く中で、くらしと生業がいよいよ厳しくなっている時だからこそ、今、市長が何をおいても行うべきことは、くらしと生業の支援の拡充、医療と公衆衛生の強化を図ることです。
財源が不足していると言うならば、不要不急の大型事業を見直す、法人市民税超過課税を8.4%に引き上げる、企業立地促進制度補助金を中小企業に限定するなど、本市ができることを直ちに行うべきです。さらに、国に対して、地方交付税の拡充などで自治体への財源を保障するよう求めることが必要です。
自治体として当然行うべき、これらの取り組みを行おうともしないで、「財源不足」ばかりを強調する、しかもコロナ影響による特別の「財源不足」さえも理由に持ち出し福祉を削減しようというのは、惨事便乗型の政治そのものです。
党議員団は、広範な市民との共同を広げながら、自己責任を押し付け、福祉を切り捨てる「行財政改革計画(案)」を撤回させること、そのおおもとにある国の政治を転換するために力を尽くします。