京都市長 門川大作様
日本共産党京都市会議員団
8月29日、京都市防災対策総点検委員会は中間報告を京都市に提出しました。この中で「原子力発電所事故等に関する対応」について、被害予測を過小に評価するなど重大な問題点があります。京都市は検討委員会に対し、必要な資料も検証すべき材料の提供も行わないまま、取りまとめが行われています。原発事故の被害予測は、防災計画を左右する根本問題であり、過小評価は市民に新たな安全神話を振りまくもので断じて容認できません。今回の福島第一原発事故は、他に類のない異質の危険をもたらすことを明らかにし、これまでの安全神話は完全に崩壊しました。安全な原発は存在しないことが明らかになる中で、地方自治体でも事故を想定した防災計画の策定作業が進められています。
市長は、福島原発事故の被害の実態を真摯に受け止め、「京都市域にはあまり大きな影響はない」との認識を改め、防災計画の見直しにあたるべきです。
1.科学的な根拠を示したEPZ(緊急時計画区域)を想定すること
国の原子力安全委員会も指針の見直しを検討している最中であり、参考としているIAEAの指針は30㌔圏内です。さらに、文部科学省が発表した福島第一原発事故によるセシウムの土壌汚染度マップ(8月29日)では、土壌汚染は警戒区域に指定された20㌔圏内にとどまらず、原発から北西方向の半径40㌔圏内に集中し、最も高い濃度は約3000万ベクレルであり、チェルノブイリ原発事故で「強制移住」の対象となった55万5千ベクレルの54倍を超えていることがわかりました。また、拡散の状況も不規則な形状であり、中間報告が示している「EPZとしては20㌔を考えておけばいい」という考えには全く根拠がありません。
京都市は検討委員会に対して、必要なデータや材料を提供し、京都市独自に必要なEPZの範囲を想定すべきです。
1.琵琶湖の水汚染の危険性を直視し、防災対策を確立すること
中間報告では「仮に琵琶湖方面に放射性物質が飛散したとしても、琵琶湖の水量が非常に多いため、水中で希釈される」「水道水として供給される前にろ過等の浄水処理を行っている」として、対応には全く触れていません。
福島原発事故で放出された放射性物質はセシウム137が、1万5千テラベクレルと広島原爆の168.5個分であることが、原子力安全・保安院により明らかにされました。また、放射性物質が雨により浄水場に運ばれて、東京都でも水の汚染が大問題になりました。広範な流域をもつ琵琶湖に放射性物質が運ばれた場合を想定した対応が必要です。また、現在の技術が放射性物質を想定したものではなく、ろ過等により水道水の放射性物質が除去できるかのような誤解を市民に与えかねません。現在、関西広域連合でも琵琶湖の放射能汚染による水供給への影響に対して、被害想定に盛り込むことを決め、代替水源の検討を開始しています。科学的な根拠を示し、市民に安全な水を確保する防災計画にすべきです。
1.若狭湾大地震の可能性を位置づけること
京都市防災会議専門委員であり、京都大学前総長の尾池和夫氏によれば、「西南日本は1995年の兵庫県南部地震(マグニチュード7.3)以後、新たな活動期に入り、南海トラフの巨大地震は今後20~30年の間に起こる」と指摘しています。さらに、「原発は過去に地震の記録のない場所に立地しているが、そこは次に地震がおこる候補地であり、若狭湾も同様」だとされています。原発事故の対策を講じる場合、参考とすべきは「若狭湾での大地震の可能性は否定できない」という地震の専門家の意見です。こうした知見に基づき、若狭湾の大地震と津波の可能性を位置づけるべきです。
1.京都市域全体を視野に入れた原子力防災対策を確立すること
福島第一原発の事故では、原発から50㌔離れていても全村避難となった飯館村に見るように、放射能の拡大は想定をはるかに超えるものでした。中間報告でも示すように福井原発からの京都市役所までの距離は60㌔であり、京都市域は30㌔から80㌔圏内に入ります。原発から80㌔圏内に存在する100万人を超える大都市は京都市だけであり、市域全体を対象にした原子力防災対策を確立すべきです。スピーディ(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)も活用した被害想定を明らかにし、根拠を示した原発事故防災対策を策定すべきです。