日本共産党市会議員団は、党議員団が提出した修正案に賛成し、京都党と日本維新の会共同提案の修正案と「議第98号 京都市敬老乗車証条例の一部を改正する条例の制定について」の原案に反対しています。私は、議員団を代表し、その理由を述べます。
敬老乗車証は長年社会を支えてこられた高齢者への敬意を込めて創設された制度であり、70歳以上の高齢者の社会参加、通院や買い物など日々の暮らしの営みになくてはならないものとなっています。「敬老乗車証で出かけるのが楽しみ」だと70歳になることを心待ちにされている方もおられる等、健康長寿、生きがいにつながっています。私が出会ったある方は「敬老乗車証は私の命綱です。これがあるから病院に行ける」と大事にされていました。
まず、日本共産党議員団の修正案について述べます。党議員団の修正案は対象年齢を70歳以上とする現行制度を維持した上で、それを補完するものとして敬老乗車券を加えるものです。市長から提案された交付年齢の引き上げ、所得制限、負担金の増額は断じて認められないことから削除したものであり、市民の願いに応えるものです。
次に、京都党、日本維新の会の共同提案の修正案については、交付対象を70歳以上とすることには賛同しますが、負担金は一律29440円とされており非常に高額です。負担金が高額のため交付を受けられなくなる方が多くなる可能性があること、現行の応能負担制度を求める市民の願いとはかけ離れているということから反対致します。
以下、原案について述べます。反対する第1の理由は、大幅な負担金引き上げの提案がコロナ禍で苦しんでいる高齢者やその家族のくらしをさらに圧迫するものになるからです。いま、国民・市民が先行きの不安を抱えながら暮らしています。政府の社会保障削減政策の下で年金は毎年毎年減らされ、介護保険や医療費などの負担は大きく、消費税が10%もかかるという高齢者の厳しい暮らしの実態があり、その上にコロナ禍です。今、自治体がすべきことは、安心して暮らせる福祉の増進に努めることではありませんか。しかし、本議案は全く逆行する中身になっています。
反対する第2の理由は、敬老乗車証制度を事実上解体するものだからであります。70歳からの交付を75歳に後らせ、合計所得額700万円以上の方を敬老乗車証交付の対象外とする制度変更は、多くの方を制度から排除し、「敬老乗車証の目的・趣旨」そのものを骨抜きにするものであります。「制度を持続可能なものにするため」と言いますが、今でも負担金が高く、申請しないという方もある中で、現行の負担金が3倍から4.5倍にも引き上げられたら「敬老乗車証をあきらめるしかない」という市民がさらに増えてしまいます。今の制度が維持されるなら少しの負担増はやむを得ないと言われていた方でさえ「まさかこんなに引き上げられるとは、ひどすぎる」と悲鳴が上がっています。そもそも京都市自らが、従来の敬老乗車証の交付を受ける方は30%にまで低下することを想定した制度設計をするなど論外です。「負担金が重い」「負担金ほど利用しない」という方は敬老乗車券を選んでいただけるので、合わせたら60%程度の交付率になるとしていますが、敬老乗車券の利用額には1万円という上限があり、しかもバスのみが対象で地下鉄には利用できないとしています。バスも地下鉄にも利用できる現行の敬老乗車証とは全く異なるものであり、「公平性」を強調する当局の言い分とも矛盾するのではありませんか。
反対する第3の理由は、社会保障であるはずの敬老乗車証制度に、当局は「受益と負担のバランス」という考えが持ち込まれているからです。当局は「敬老乗車証制度には本市予算の多額をつぎ込んでいる」と繰り返し言われ、中高生の通学定期代を負担金見直しの額の根拠とされています。しかし、そもそも通学定期そのものが高すぎるという問題があり、また毎日の通学と高齢者の社会参加・暮らしを支えるための高齢者福祉施策である敬老乗車証を同列に並べて考えること自体が間違っています。社会保障は、年老いても、病気や怪我をしても、失業しても、社会全体で支える役割があり、社会保障を充実していくことは自治体の原点であります。敬老乗車証を使って、高齢者が元気に出かけ、暮らしていかれることは、地域や社会に活気をもたらすものであり、高齢者福祉そのものです。そこに受益負担の考え方を持ち込むこと、敬老乗車証制度の受益者を高齢者のみであるかのように矮小化することは、自治体がすべきことではありません。
反対する第4の理由は、当事者や市民の意見に耳を貸さず、制度を財政面からのみ検討し、制度の効果についての検証を全く行わないままの一方的な提案だからです。2013年10月に本市が「敬老乗車証制度の今後の在り方に関する基本的な考え方」を示されて以来8年間、市民からは「現行の敬老乗車証制度を守ってほしい。応益負担は困る」「市バスが通っていても民間バスの方が便利な地域で民間バスに敬老乗車証がつかえるように」という要望が繰り返し出されました。昨年12月末に敬老乗車証の負担金値上げ、対象を75歳とすることが報道されて以降、現行制度継続を求める声はますます切実となりました。今年度7月市会で請願と合わせ474件の陳情、9月市会には1004件もの陳情が提出されたことにその切実さが示されています。これらの市民の声を重く受け止めるべきではありませんか。
また、現行の敬老乗車証の仕組みが大きく変更される提案でありながら、その詳細は市民に説明されることなく、現行制度の効果について検証されていないのは大問題です。敬老乗車証を使っておられる方からは「なくてはならない宝物」だと言われており、名古屋市では市民アンケートも実施し、効果の検証が行われ、敬老乗車証を使って出かけることによる健康効果、車を使わずに出かける環境効果、外出して買い物をするなどによる経済効果などを明らかにされています。その結果を受けて制度が存続されてきています。「敬老乗車証を守ろう!連絡会」が行なった調査でも同様の結果が得られ、「敬老乗車証があることで外出の回数が増え、高齢者の健康や、外出先での買い物や食事などで507億円の経済効果がある」と試算されています。市民からも本市としての効果検証が求められてきましたが、本市は「効果検証の手法が確立されていない」として検証を拒み、結局、財政難を理由に今回の提案を行いました。現行制度の効果の検証はしない、負担金が3倍になり、75歳からなどに制度を変えた場合、高齢者のくらしや健康に及ぼす影響はどうなのかも検証された跡がありません。検証なしに制度の趣旨は維持すると言われても、根拠がないのですから、説得力はなく、市民の理解が得られません。
反対する第5の理由は、本市の進める行財政改革の一環として市民負担ありきで行われようとしているからです。本市は財政難を強調しながら、敬老乗車証に係る財源と比較にならないほど巨額の負担が伴うであろう北陸新幹線延伸や堀川・油小路地下バイパス計画など巨大プロジェクトは推進すると断言しています。北陸新幹線よりも敬老乗車証など市民の福祉向上に帰する施策にこそ市の財源は使うべきではありませんか。
反対する第6の理由は、行財政改革の前提とされている市の財源不足額が想定より少なくなることが明らかとなり、制度変更の根拠が崩れているからです。これまでも市に入ってくる財源を少なく見積もり、出ていくお金を多く見積もるなど、財政危機を実際よりも大きく見せかけて「10年以内に財政破綻する」と誇大宣伝してきましたが、来年度の予算編成方針でも今年度収入は想定より増える見込みとされており、敬老乗車証の負担金引き上げや、負担対象を狭めるに至る前提が違うのですから、一から考え直すのが当然ではありませんか。
高齢化社会が進行する中で、年を重ねた方々が長年住みなれた場所で安心して元気に暮らせることが、より求められています。「近くのスーパーがなくなり買い物する場所がなくなってしまったけれど、敬老乗車証があるのでバスに乗って買い物に行ける」と喜んでおられる高齢者が今回の制度の変更により敬老乗車証の交付すら受けられなくなる、負担金が重くフリーパスの交付をあきらめ敬老乗車券を利用することにした方が上限を超えたら出かけるのを控えざるを得なくなる、そういう状況は想像に難くありません。
現行の敬老乗車証制度は、京都市の数ある施策の中で優れた福祉施策です。党議員団は、敬老乗車証に感謝し、「宝物」だと喜んで使っておられる高齢者やそのご家族の声、敬老乗車証が地域格差なく、さらに使いやすく、良いものになるようにと願う市民のたくさんの声をお聞きしてきました。これらの市民の願いに背を向け、財政効果優先に考え、高齢者のくらしや健康を後景に追いやる制度の見直しは断じて認められません。
くり返しになりますが、京都市が自治体本来の役割を発揮し、高齢者が元気でいきいきとバス・地下鉄を利用し出かけられるよう、現行の敬老乗車証制度を存続・拡充していくことこそ必要であることを申し述べ、討論と致します。