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見解・声明

10年5月21日(金)

[報告]焼却灰溶融炉は稼働中止すべき! ごみ・環境

西野さち子・京都市会議員 

●焼却灰溶融炉は未熟な技術

  1997年4月に旧厚生省が「灰溶融固化施設の設置」を焼却施設整備に当たっての補助要件としたことで、溶融施設は全国の自治体に広がりました。国による「ガス化溶融炉」か「灰溶融炉」かの二者択一の押し付けは、突如年間数千億円規模の市場を生み出し、さらに2002年のダイオキシン規制強化が溶融炉導入を促進させました。しかし、稼働して3カ月で炉内の耐火レンガが損傷する致命的な事故が起こった施設や、異常なダイオキシンを検出し稼働停止した施設、またメーカーが無償修理する保証期限が切れた施設では、維持補修費が高騰して自治体財政を圧迫するなどの問題が全国で起こったため、環境省は2008年にようやく実態把握に動き出しました。日本環境衛生センターの藤吉秀昭常務理事は「基本的な課題をクリアしないまま実施に移した技術もあり、影響が出始めている」、他の専門家は「そもそも未熟な技術だった」と指摘しておられます。

●維持費高騰は東北部クリーンセンターで実証済み

  京都市の東北部クリーンセンターには、2001年4月に稼働開始し、2008年9月に稼働停止した「ばいじん溶融炉(24t/日)」がありますが、この施設も2002年に溶融炉のレンガが破損し溶融物が流れ出すという事故を起こしています。経費の面からみても、「ばいじん溶融施設」のメンテナンスだけで、稼働していた7年半に5億1830万円も支出。1年目に1630万円だったものが、稼働停止前には耐火煉瓦の張替が4カ月ごとに行われ、煉瓦の費用だけで9200万円となり、合計1億6570万円と10倍にも膨れ上がりました。2010年3月の予算議会で、理事者は、焼却灰溶融炉についても維持費高騰の可能性を認めざるを得ませんでした。

●ダイオキシン抑制施設で環境基準の42倍を検出

 京都市の焼却灰溶融炉は2~3カ月の試運転の後、2010年6月から本格稼働をする予定でした。ところが2010年4月30日になって、京都市は突然、本格稼働延期を発表しました。「2010年4月26日に住友重機械工業株式会社(プラント設備工事の請負業者)から、試運転工程の遅れにより竣工期限内での履行が不可能になったとの報告があり、本市と致しましては、6月からの本格稼働を延期せざるを得ない状況と判断致しました」というものでした。

 遅延の理由は、①09年12月から開始した試運転中に耐火煉瓦の損傷や排水処理設備に不具合が生じ、その改善に時間を要したため、試運転工程に約2カ月の遅延が生じ、第一次性能確認試験が2010年4月にずれ込んだ。②試運転中の3月測定の排水中ダイオキシン類の値は基準値(10pg-TEQ/L)を下回る0.55pg-TEQ/Lであったが、4月5日から実施した第一次性能確認試験中の排水から、基準値を上回る150~420pg-TEQ/Lのダイオキシン類が検出されたことが4月14日に判明した。③再測定の結果も基準値を上回る130~170pg-TEQ/Lであったため、原因を究明し、抜本的な対策を講じるには相当な日数を要すると見込まれる。④抜本的な対策を講じた後に、第一次性能確認試験(連続3日間)、第二次試運転(連続30日間)、第二次性能確認試験(連続3日間)の実施に約40日間を要することから、竣工期限内での履行が不可能になったというものです。

 住友重機械工業は有識者を含む対策チームを立ち上げ、早急に原因究明と抜本的な対策を講じるとしていますが、なぜ高濃度のダイオキシンが出たのか理由は全く不明です。

●当局の隠蔽体質

 京都市は、4月14日には基準を上回るダイオキシンが検出された事が判明していたにも関わらず、4月20日の市議会「くらし環境常任委員会」、4月23日に調査に入った日本共産党議員団に報告をしないだけでなく、排水は安全に管理していると説明していました。議会や市民に公表せず、ひた隠しにしていたことは許せません。

●危険な施設は稼働中止しかない

 そもそもダイオキシン類は、ほとんど水に溶けません。排水から基準の42倍も検出された事は、非常に多くのダイオキシンが発生していることを示しているのではないでしょうか。人体に取り込まれたダイオキシンが半分になるまでには5年から10年もかかり、その影響はベトナムの「ベトちゃんドクちゃん」のような奇形児や染色体異常等が報告されています。

 住友重機械工業は、試運転の段階で有識者を含めた特別の対策チームを立ち上げなければならない事態となっています。冒頭の専門家の言葉のように、焼却灰溶融施設はまだまだ開発途上の技術であって未熟な技術だという事です。何が起こるか分からないという事を図らずも、今回の事故は証明しているのではないでしょうか。

●国は温暖化防止に逆行と認めた

 国はこれまで進めてきた「焼却炉建設で溶融固化施設の設置を補助要件とする」方針を今年3月に変更しています。2010年3月19日付で環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長から、各都道府県知事宛てに出された「環境省所管の補助金等に係る財産処分承認基準の運用(焼却施設に附帯されている灰溶融固化設備の財産処分)について」という通知が出されました。通知が出された背景として、①ダイオキシン対策の推進に伴う排出削減効果の発現(飛灰及び焼却灰のダイオキシン濃度の著しい低下)により溶融固化処理の必然性が低下していること。②3Rの推進により最終処分場の残余年数が増加していること。③灰溶融固化設備の廃止による燃料の削減で温室効果ガスの削減へ寄与することの3点が示されています。結局、焼却灰溶融炉は、多大な財政負担をしてまで設置する必要がないだけでなく、温室効果ガスの削減に逆行するという事を国が認めたわけです。京都市はごみを10年後には2000年の半分に減らす計画です。東部山間埋立地は溶融炉が無くても後50年は使える計画ですから、国の通知に従って溶融炉の稼働は中止すべきです。

(京都自治体問題研究所月報 「くらしと自治 京都」2010年6月号掲載)