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見解・声明

07年7月 1日(日)

京都市 新景観条例制定へおしあげた市民運動 高速道路・まちづくり


 山中渡(党京都市議会議員団長)

 

 2月定例市議会で、京都市の建築物の高さ制限や屋外広告物の規制強化の新景観政策関連条例が全会一致で成立しました。京都のまちづくりにおいてすすめられてきた規制緩和と高層化路線の一大転機となりくました。これらの条例は2007年9月1日から施行されます。

 これまで京都市は、1980年代後半から90年代前半にかけて、京都財界とともに民間活力活用路線を市政の基調にすえ、60メートル級の京都ホテル(当時)やJR京都駅ビルを出現させるなど、率先して京都のまちの高層化と景観破壊をすすめてきました。市民の間から景観保全と高さ規制強化を求める運動が大きく広がるなど、激しい景観論争が起こりました。また、町内単位に「まちづくり憲章」や「まちづくり宣言」をすすめる運動が生まれるなど、景観破壊に有効な手を打たない行政に対し、市民自らが京都の景観保全とまちづくりに立ち上がりました。今度の新景観条例の成立は、京都におけるこうした市民の長期にわたる景観論争と市民運動の成果と言えます。

 京都市が新景観政策へ踏み出した背景に、京都財界などの「京都の都市再生推進に向けての緊急提言」(京都経済同友会2002年7月)など「国家戦略による京都再生」の動きがあったとはいえ、「京都というのは京都市民、京都だけのものではなくて、国家的な共有財産」(2005年京都創生フォーラム・京都経済同友会常任幹事報告)との認識を示さざるを得ず、遅きに失したとはいえ、京都財界も景観再生と保全の方向にすすまざるをえなくなりました。

 その背景に、京都新聞の世論調査で建築物の高さ制限や屋外広告物の規制強化に賛成の市民は8割以上、また、7割以上の市民が自ら規制を受け入れるとするなど、景観再生と保全に対する高い市民意識がありました。

新景観政策の内容と特徴

 新たな景観政策にもとづき「京都市眺望景観創生条例」「京都市都市計画(京都国際文化観光都市建設計画)高度地区の計画書の規定による特例許可に関する条例」の新しい条例が制定され、「京都市風致地区条例」「京都市自然風景保全条例」「京都市市街地景観整備条例」「京都市屋外広告物に関する条例」の条例改正がおこなわれました。

 景観政策の全容と条例の内容を概括すると、①市街地全域の高さ規制を見直す。これまであった45メートル地区を廃止し、高度地区の区分を新たに10、12、15、20、25、31メートルの6段階とする、②市街地全域を景観地区に指定する、③美観地区を拡大し美観形成地区を新たに設ける、④14の世界遺産周辺の歴史的環境、山並みへの眺望景観の保全をはかる、⑤屋上の屋外広告物を原則禁止する、等となっています。

 屋外広告物規制条例は、①屋上広告物を原則禁止する、②眺望景観を配慮する沿道では突出した屋外広告物を禁止する、③点滅式照明の禁止を市内全域に拡大する、などの大幅な規制強化がおこなわれました。

市民、専門家と懇談・意見交換、議会論戦に生かす

 党京都市会議員団は、京都市新景観政策にある高さ規制やデザイン規制の基本的考え方 は評価すべき方向であり、その大枠については賛成との態度をいち早く打ち出し、新景観政策関連条例について市民との懇談や議会の論戦に臨みました。

 また、日本共産党京都府委員会として市民や専門家集団との懇談、意見交換も積極的におこなうとともに、党京都市議団独自に広く市民に参加を呼びかけた懇談会もおこなってきました。いずれの懇談会にもまちづくり運動、マンション居住者、設計士や工務店など建築関係業者、広告看板関連業者の各代表をはじめ、学者、弁護士、まちづくり都市計画の専門家など、多様な市民・専門家の参加がありました。

 そこでは「新しい景観政策には様々な問題はあるが全体は評価できるもの。まず成立させることが大事」「景観破壊を告発し京都の景観を守るまちづくりをすすめてきたものにとって新景観政策は非常に感慨深いものがある」「課題については今後の住民運動の中で」など、新景観政策に対する賛同の意見が多く出されました。同時に、建築関係業者の市民からは、「総論賛成だが幹線道路の規制は厳しすぎる」「デザイン規制が厳しく狭小宅地の建て替えができなくなる」など、問題点の指摘もありました。また、屋外広告物が大きく規制されることにより「仕事が減るのではないか」などの率直な声も出されました。また、新たな規制のもとでこれまでの建築物が既存不適格になるケースへの不安の声もあり、とりわけ分譲マンション住民から「耐震改修、バリアフリー対策、大規模修繕に支障が出ないのか」「中古マンションの修繕等の融資は大丈夫か」「建て替えができなくなる」などの声が出されました。

 こうした市民の具体的な不安に対して、京都建築労働組合、建築士会や工務店関係者の市民、さらにマンション管理組合の代表やマンション管理対策協議会の代表の市民とも、率直な意見交換を行い、その後の論戦に生かしました。

 議会論戦では、まず冒頭に、規制緩和路線と高層ビルを認めてきた京都市の路線の反省を強く求め、これまでの路線の反省があってこそ新景観政策が今後に生きることを繰り返し主張しました。さらに、新景観政策の内容を市民に正確に知らせ、市民の疑問や不安に対して十分な情報提供をおこなうこと、また、デザイン基準では都市計画審議会や美観風致審議会などの仕組みにとどめるのではなく、幅広い市民参加と専門家集団の知恵を生かす新しい市民参加の制度をつくること、景観政策をすすめるにあたっての専門家派遣や補助制度の創設など住み続けるための新しい支援制度を確立すること、マンション住民に対する耐震、バリアフリー改修協議等への支援など住み続けられる支援策の充実などを求めました。景観保全の財源問題についても、国の財政支援を強く求めることを強調しました。

まちを守ってきた市民運動のエネルギーと理念

 1991年1月、日本共産党京都府委員会、同府議団、同市議団は連名で、「提言・市民の暮らしがいきづく歴史都市京都の町並みと景観、緑と自然を守るために」を発表し、歴史都市京都の町並みと自然が大きく損なわれていることを告発するとともに、京都市内の町並み、自然の保全のための市民的討議を呼びかけました。

 当時、自民党府市政のもとで「民間活力活用」「規制緩和」路線のもと、高層マンション・ビルの乱立、不動産業者の地上げによる住民追い出し、地価高騰による借家の家賃負担増問題が市内各地で起こっていました。マンション建設は、京都の景観を代表する産寧坂、嵯峨野一帯にもおよびました。また、東山、北山、西山など京都三山の山麓部分でも宅地開発の波が押し寄せ、京都の町並み・景観、自然が危機的状況にさらされていました。高層建築物をめぐる住民と開発業者との紛争も絶えず、建築物の高さを下げることや日照時間の確保、景観に配慮したデザインなどを求める請願が相次ぎ、担当する建設常任委員会では100件を超える請願が議題になることもありました。

 ところが、京都市はこうした市民の声に耳を貸さないだけでなく、逆に総合設計制度の活用でこれまであった建築物の最高の高さ制限45メートルを60メートルに緩和する、また、JR京都駅の改築にあたっては100メートル級の超高層ビルも可能とする方向へ踏み出しました。

 こうした"まちこわし"や景観破壊に京都市民が立ち上がり、運動をすすめた結果、開発をやめさせたり、高さを制限するなど、一定の歯止めをかけてきました。147万人の市民が暮らす大都市でありながら、京都市の歴史的景観が維持されてきたのは、こうした開発の波の時々におこった市民の運動と民主府市政の努力が背景にあります。

 1960年代の「日本列島改造論」政策による開発の嵐が吹いた時代に、当時の民主府市政は全国で唯一、高度地区指定を市街地全域にかけ、建築物の高さを規制しました。また、1972年には全国で初めて市街地の景観保全を目的とした「市街地景観整備条例」が制定されました。1970年にはユネスコ(国連教育科学文化機関)が全人類の共有財産として歴史都市京都を全域にわたって保存方策がとられるべきとする勧告しています。

 1980年代後半から90年代後半にかけてのマンション建設ラッシュの際には高さ制限や容積率いっぱいの建築物が相次ぎ、景観破壊と日照障害など、住環境破壊が引き起こされ、周辺住民との紛争も数多く起こりました。当該建築物の高さの引き下げ要望をはじめ、京都市の高さ制限や容積率の引き下げを求める市民要望が数多く出されました。また、この時期、多くの文化・知識人、宗教者など各界各層による「京都を守れ」の声が相次ぎました。同時に、市民自らが市街地の高さ制限などを実現する運動や景観と住環境を自ら力で守ろうと「まちづくり憲章」「まちづくり宣言」の取り組みなどが広がりました。自分が住むまちのまちづくりの目標や理念を自らが決めようとする運動も大きく広がりました。

 こうした市民運動のエネルギーと理念は、今も受け継がれています。今回の新景観政策のもとで上から押し付けるまちづくりのやり方に批判の声が出されました。今後のまちづくりと景観保全は、上からの押しつけではなく、市民参加が実現できるかどうか、それが実効性ある景観保全政策をとれるかどうかの試金石といえます。

残された問題点と課題

 懇談会以外にも日本共産党に、さまざまな意見が寄せられました。

 「規制が厳しい区域と規制がゆるい地域が混在している。不公平だ」「分譲の共同住宅だが新耐震以前の建物であり耐震基準を満たしていない。対策をとるにも資金がない」「マンションなどの解体費用は誰が負担するのかなど新しい課題への対応が必要」「高層マンションの解体時に出る粉塵で健康を害する問題も出てくる」「表が低く裏が高いデザイン基準があるがこれでは中庭に日が入らない、風もとおらない」「いまの市長の11年間に都心部で12階以上の高層マンションが急速に増えた」「条例制定前の駆け込み建設がおき、対策が必要」「専門家、住民の意見を取り入れる市民参加制度の確立が必要」「既存不適格の建物に対する公的支援制度、低層家屋の保全再生のための支援制度の創設」等々です。

 新景観政策の具体化にあたっては、これらの市民の声をどう生かすかが課題といえます。新景観政策の規制による詳細なデザイン基準について、専門家集団、市民参加のもとでより良いデザイン基準に見直すこと、また、今度の新しい高さ規制により京都市内全体で1800棟の既存不適格建築物が生まれます。こうしたもとで住み続けられるための分譲マンション対策が特に必要となっています。

 この点は、議会論戦でも取り上げましたが、マンションの耐震対策、バリアフリー、リフォーム対策、建て替え協議・合意形成などの支援策の具体化が必要です。京都市は議会答弁でマンション建て替えにあたってのアドバイザー派遣の考え方を示しましたが、耐震診断・改修やリフォームなどについては融資制度など従来の方策にとどまっています。

 また、新景観政策では全市に高さ制限を設けるとしながら、「都市再生特別措置法」による緊急都市再生整備地域などについて、高度地区の指定をはじめから除外しています。そのため、山科区、西京区、南区、伏見区の一部に高度地区の指定がない地域が生まれました。また、容積率700%地域など、過剰な容積率の地域がそのままにされています。さらにまちづくりとデザイン基準の詳細づくりに専門家や広く市民が参加できる制度を確立し、協議を通じて問題点が明らかになれば速やかに見直し、改善をはかる制度と仕組みをつくることが必要です。

 条例制定後から、市長の「特例扱い」に関する問い合わせが増えています。今後の大規模開発において特例扱いにより規制がすりぬけられることがまかりとおれば、新景観政策が骨抜きになりかねません。駆け込み建設を認めないなど、京都の景観破壊をこれ以上すすめないことを貫くことが大事になっています。

市民参加の発展こそ新景観政策を生かす道

 前述したように、民主府市政時代の規制や美観地区指定、その後の市民のまちづくり運動とそのエネルギーが京都のまち破壊を鋭く告発し、今回の景観政策に結びつきました。同時に今度の新景観政策に対する財界全体の動きについてもよく見ることが重要です。

 2005年の京都創生フォーラムで、「京都の都市再生推進に向けての緊急提言」(2002年7月)の報告にたった京都経済同友会常任幹事は、京都を文化遺産として保存するだけではなく、「生活の場であり、産業の営みの場であるということ、その中で再生をしながら、そして都市間競争にも打ち勝っていく」ために京都に基準をつくることを認め、そうした結果、「キリンビール工場跡地とかJR京都駅南口、それから油小路通」などで、優遇措置をうけることになったと報告するなど、規制緩和のまちづくりを同時進行ですすめるとしています。

 京都財界の動きが結果として京都の景観を再生し、新景観政策に結びついたことは評価しつつも、そのことが住民がのぞむまちづくりと住み続けることへの障害にならない仕組みづくりが必要と考えます。何よりも今回の新景観政策を契機にまちづくりへの市民参加の制度が拡充し、市民の力でまちづくりをすすめることこそ、新たな京都破壊を許さない確かな道ではないでしょうか。日本共産党は、市民との共同をいっそう強め、京都の良さをいかしたまちづくりと景観保全のために全力をつくす決意です。

 (『前衛』2007年7月号より転載)