井上けんじ 議員
06年9月22日(金)
健康保険法一部改定に伴う条例改正に反対する討論 06年9月定例市会 本会議討論
日本共産党は、議第113号「健康保険法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係条例の整理に関する条例案」に反対しておりますので、以下、その理由について討論します。
本条例案は、国の法律が変わったことにより、京都市老人医療費支給条例など四つの条例を一括して改正しようというもので、その要点は、特定療養費から「保険外併用療養費」への再編、療養病床入院にあたり「入院時生活療養費」を福祉医療の対象としないこと、及び、老人医療の一部負担金が3割となる人は受給者証の提示が不要となる、というものであります。
規定整備とはいえ、反対する最大の理由は、条例改正の根拠である法律の変更が、一層の負担増と制度改悪をもたらす、国民の命にかかわる大改悪だからであります。
第一に「保険外併用療養費」は、文字通り保険のきく医療ときかない医療を併用しようとするもので、厚生労働大臣自身が国会で答弁しているように、混合診療の実質的解禁に他なりません。もし今百円の医療費がかかったとすると、本人負担は3割で30円、ところが例えばこの百円のうち20円が保険外になると、本人負担は、この20円+80円の3割即ち24円で、計44円にも跳ね上がるのであります。この保険外部分が増えれば増えるだけ、この部分の支払いが困難な国民は必要な治療を受けられず、即ち所得の格差が治療の格差、命の格差になってしまいます。今でさえ3割もの一部負担金や、国保でいえば資格証明書や無保険など「保険証一枚でいつでも医療にかかれる」という国民皆保険の形骸化がすすんでいるのに、この保険外併用療養費は、皆保険原則崩壊の傾向をさらに推し進め、医療の大原則を質的に覆すものではありませんか。
一部だけでも保険がきいた方が負担が軽くなると政府は言いますが、これは逆に言えば、全体としては保険がきかない状態の固定化に繋がり、しかも一旦混合診療が認められると、むしろ保険のきく部分が縮められる恐れが否定できません。安全の確認など条件を満たせば、一部でなく丸々適用すべきであり、透析や眼内レンズなどの例を待つまでもなく、必要な治療を丸ごと保険で適用できるように拡大されてきたのが医療保険の歴史であります。高度医療が丸々適用されると財政が心配だとの声もありますが、高度医療は全体の0.01%にもなりませんから、この心配もあたりません。元々この混合診療は、株式会社による医療機関経営の解禁と並んで、経済界やアメリカが強く要求してきたことで、保険外部分に自分たち民間保険が参入しようとの意図から出発しているものであります。財界やアメリカいいなりを国民の命より優先させるやり方は絶対に認められません。
第二に、「入院時生活療養費」は昨年10月から介護保険施設で導入されている食費・居住費負担を、療養病床に入院中の70歳以上の高齢者にも広げるもので、委員会質疑でも、現行の、食費月24,000円が18,000円値上げで42,000円になり、加えて新たな居住費負担が1万円、計28,000円もの値上げで何と52,000円、更に、これに元々の一部負担金とを合計すると、実に96,000円もの負担になるとの答弁でした。厚生労働省試算では、更に、これにオムツ代・日常生活費合計約3万円が加わって12万円以上にもなるということであります。食事は元々治療や療養の一環ですし、居住費も保険給付されて当然ではありませんか。国民年金は満額でも7万円にも満たないのです。全く無謀極まりない負担増ではありませんか。
第三に、老人医療の一部負担金の問題です。原則1割、課税所得145万円以上の老人は2割ですが、この2割を10月から3割に値上げしようとするものであります。特に、政府の各種控除の廃止や縮小で、むしろ収入が減っているのに名目の所得が増えたため、この8月に1割から2割になった人たちがおられますが、この人たちは早速来月から3割に、即ち7月までの1割が何と3倍もの値上げになるのです。1割の人も再来年には2割になります。元々、老人は病気にかかりやすいという特性があるからこそ老人医療制度が生まれてきたのであって、そうしてこそ実質的な平等です。受診抑制がすすめば、重症化・長期化により、却って医療費の増加となってしまうのではないでしょうか。保健・医療・福祉・介護の公的役割の発揮と連携の強化などこそが求められる方向であろうと考えます。
この老人医療は、あの沢内村を先駆として東京や京都など無料化が全国の自治体に広がり、遂に政府をも動かしました。地方自治体がその本来の役割を発揮して住民の福祉を増進させるか、それとも天下の悪法に対し何らの批判的な見解も持たずに追随するか、今、その存在意義が問われているのではないでしょうか。日本医師会の常任理事は国会での参考人質疑で「混合診療はお金のあるなしで医療の内容に格差が生じる、反対だ」と言っておられます。関係者の皆さんなどの危惧や心配の声も広がっています。市長も、これら市民や関係者の声にもっと耳を傾け、この良識ある世論に依拠すべきではないでしょうか。保険料の引き上げ、一部負担金の引き上げ、そして介護保険のベッドの問題や年金額の値下げなども含め保険給付の縮小、保険外部分の拡大・自費や私保険領域の拡大とくれば、一体、これからの医療や福祉はどうなっていくのでしょうか。市長や議会が、もっと政府に声を挙げるよう心から呼びかけまして、反対討論とします。