北山ただお 議員
05年12月16日(金)
意見書案 人権擁護法の早期制定をもとめる に対する反対討論 05年11月定例市会 閉会本会議討論
国民の言論、表現の自由を脅かす根本的な問題、欠陥を持っている
ただいま提案されました「人権擁護法の早期制定をもとめる意見書案」に、日本共産党市会議員団は反対していますので、私は議員団を代表して以下理由を述べます。
まず、この意見書案ではこれまで国会に提出された法案は、「衆議院選挙等の事情により、いまだに成立するにいたっていない」とありますが、本質的には「独立性や実効性の欠如や、メデイア規制の問題等、克服すべき課題」が解決されていないことにあります。ところが、意見書案は、「克服すべき課題」が解決されないまま、早期制定だけを求めるもので、とうてい賛同できるものではありません。
そもそも、人権擁護法案で設立される人権救済機関は、本来、国民に対する人権侵害に対し、裁判所とは別に救済機関をつくって迅速・的確対処することが目的です。国連は、その機関を実効あるものにするために「国内人権機関の地位に関する原則」で政府からの独立を厳しくうたっています。日本政府は、1998年国際人権委員会から刑務所や入国管理官署での人権侵害に有効に対処できていないとして、政府から独立した救済機関を設置するよう勧告されています。 法案は、今国民が求めている迅速な人権救済には役立たず、国民の言論、表現の自由を脅かす根本的な問題、欠陥を持っているものであります。
以下、反対する4つの問題点を指摘します。
真の人権救済には程遠いもの
まず、第1に、「人権侵害の救済機関」が政府からの独立性がなく、恣意的な運用の恐れがあることです。 法務省内の一機構としてつくられる「人権委員会」が、不当な差別や虐待など人権侵害の救済にあたるといいます。しかし、名古屋刑務所での受刑者に対する集団暴行事件で、1人死亡、1人に重傷を負わせ、関係する5人の刑務官が逮捕・起訴される事件がありました。しかも人権侵害を起こしながら公表を遅らせるという、法務省の隠蔽体質が明らかになりました。新聞各紙も社説を掲げて、「人権救済機関を法務省にゆだねるわけにはいかない」と批判しています。 国会でも、こうした刑務所における人権侵害が常態化していることが明らかになり、このような部署を持った法務局の中に人権擁護委員会を設置することは許されない、という議論にまでなっているのです。次ぎに、この意見書案で、国連の「国内機構の地位に関する原則」いわゆるパリ原則を尊重した対応等、早期に国際的責務を果たすことが求められる、とありますが、このパリ原則では、公権力による人権侵害を迅速かつ簡易に救済する、公権力から独立した人権救済機関を求めているものであります。
人権侵害法案となる危険
第2に、何を「差別的」とするのかは、裁判でも判断が分かれる微妙な問題です。「差別」の定義もあいまいで、人種などを理由とした「侮辱、嫌がらせその他の不当な差別的言動」という内容です。何を差別的と判断するかは委員会まかせで、いくらでも恣意(しい)的な解釈と適用が可能です。 なかでも相手を「畏怖(いふ)させ、困惑させ」「著しく不快にさせるもの」は「差別的言動」、助長、誘発するものは「差別助長行為」として、予防を含め停止の勧告や差し止め請求訴訟ができる仕組みです。
市民の間の言動まで「差別的言動」として人権委員会が介入し、規制することになれば、国民の言論・表現の自由、内心の自由が侵害される恐れがあります。
「差別」を口実とした市民生活への介入といえば、かつて部落解放同盟が、一方的に「差別的表現」と断定し集団的につるし上げる「確認・糾弾闘争」が問題になりました。「糾弾」は学校教育や地方自治体、出版・報道機関、宗教者などにもおよび、関係職員の自殺など痛ましい事件が起きました。 「糾弾闘争」は現在でも後を絶っておらず、今回の法案は「解同」の運動に悪用されかねません。人権擁護法案どころか逆に、人権侵害法案となることが心配されます。
第3に、政府は「報道機関による報道被害に関する規定について一定期間凍結する」とのことですが、「差別」を口実にした出版・報道の事前の差し止めなども可能であり、また「いつでも凍結解除できる」とマス・メデイアへの報道規制の危険に変わりありません。 国民の「言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」という憲法第21条に抵触するような法案では、到底認められません。 メディア規制条項を許さず、報道被害の問題は、報道機関の自主的な取り組みを基本とすべきです。
公権力や大企業による人権侵害には無力
第4に、人権擁護のため、もっとも必要な公権力や大企業による人権侵害の救済にはまったく無力なことです。たとえば防衛庁のリスト問題では、防衛庁に情報公開を求めた国民の情報を、逆に防衛庁が独自に収集・蓄積をして、それをネットに流していた問題です。国会でも大問題になりましたが、公権力が個人情報を勝手に収集・蓄積していることについて、人権侵害の申し立てがあっても、法案では特別救済の対象にはなりません。さらに、大企業等で横行する人権侵害、思想差別も、厚生労働省など行政にまかせて、救済の対象にしていません。こういう大企業などでの人権侵害を行政任せにすることはできません。諸外国のように独立した委員会が、雇用における差別の禁止を扱うことが必要です。
最後に、同法案には、日本ペンクラブ言論表現委員会・人権委員会をはじめメディアにかかわる6団体も「安易に表現の自由への規制を法制化しようとするもの」として反対しています。
こんな法案は国会に再提出すべきではありません。国民的合意ができる人権救済の仕組みをつくるため、議論を根本からやり直すことをもとめ、「同法案の早期制定を求める意見書」に反対することを申し述べて、討論を終わります。